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東京地方裁判所 昭和60年(特わ)1327号 判決 1985年10月09日

国籍

韓国

住居

東京都文京区根津一丁目二七番一三号

遊技場等経営

三井英祐こと夫英祐

一九一七年六月一三日生

国籍

韓国

住居

東京都豊島区駒込一丁目五番二号

遊技場等経営

高山二吉こと高斗慎

一九二六年一二月二〇日生

右の者らに対する各所得税法違反事件について、当裁判所は、検察官上田勇夫出席のうえ審理し、次のとおり判決する。

主文

一  被告人両名をそれぞれ懲役一年及び罰金二四〇〇万円に処する。

二  被告人らにおいてその罰金を完納することができないときは、被告人両名について金一〇万円をそれぞれ一日に換算した期間、その被告人を労役場留置する。

三  この裁判確定の日から、被告人両名に対し三年間、それぞれの懲役刑の執行を猶予する。

理由

(罪となるべき事実)

被告人三井英祐こと夫英祐(以下「被告人夫」という。)、同高山二吉こと高斗慎(以下「被告人高」という。)は、東京都大田区大森北六丁目二九番一三号において、「和泉」の名称でパチンコ店を、「ゲームセンター和泉」の名称でゲーム店を、「麻雀クラブ南」の名称でマージャン店を、「南山苑」の名称で焼肉店を、同都千代田区神田平河町四番地において、「泉ホール」の名称でパチンコ店を、「ゲームハウス泉」の名称でゲーム店をいずれも両名共同で営み、更に同都足立区西新井栄町二丁目三番一四号において、「マルミセンター」の名称でパチンコ店を高斗善と三名共同で営んでいたものであるが、被告人らにおいて適当に算出した申告所得金額は、実際総所得金額を大幅に下回ることを認識しながら、ことさらに過少に記載した内容虚偽の所得税確定申告書を提出する方法により、それぞれ自己の所得税を免れようと企て

第一被告人夫は

一  昭和五六年分の実際総所得金額が五〇八一万六四八六円であった(別紙(一)修正損益計算書参照)のにかかわらず、同五七年三月一五日、東京都台東区東上野五丁目五番一五号所在の旧住所地所轄の下谷税務署において、同税務署長に対し、同五六年分の総所得金額が九六五万円でこれに対する所得税額が二〇四万六九〇〇円である旨の虚偽の所得税確定申告書(昭和六〇年押第九四六号の1)を提出し、そのまま法定納期限を徒過させ、もって不正の行為により同年分の正規の所得税額二五一七万五一〇〇円と右申告税額との差額二三一二万八二〇〇円(別紙(五)税額計算書参照)を免れ

二  昭和五七年分の実際総所得金額が一億五一五万二四〇三円であった(別紙(一)修正損益計算書参照)のにかかわらず、同五八年三月一五日、前記下谷税務署において、同税務署長に対し、同五七年分の総所得金額が九九五万円でこれに対する所得税額が二一五万四三〇〇円である旨の虚偽の所得税確定申告書(昭和六〇年押第九四六号の2)を提出し、そのまま法定納期限を徒過させ、もって不正の行為により同年分の正規の所得税額六三〇九万二〇〇円と右申告税額との差額六一七四万五九〇〇円(別紙(五)税額計算書参照)を免れ

第二被告人高は

一  昭和五六年分の実際総所得金額が五〇八一万四六九〇円であった(別紙(三)修正損益計算書参照)のにかかわらず、同五七年三月一五日、旧住所地所轄の前記下谷税務署において、同税務署長に対し、同五六年分の総所得金額が六四五万円でこれに対する所得税額が六四万六四〇〇円である旨の虚偽の所得税確定申告書(昭和六〇年押第九四六号の3)を提出し、そのまま法定納期限を徒過させ、もって不正の行為により同年分の正規の所得税額二四二四万六九〇〇円と右申告税額との差額二三六〇万五〇〇円(別紙(六)税額計算書参照)を免れ

二  昭和五七年分の実際総所得金額が一億六七八万五三八四円であった(別紙(四)修正損益計算書参照)のにかかわらず、同五八年三月一五日、前記下谷税務署において、同税務署長に対し、同五七年分の総所得金額が七〇五万円でこれに対する所得税額が九二万二一〇〇円である旨の虚偽の所得税確定申告書(昭和六〇年押第九四六号の4)を提出し、そのまま法定納期限を徒過させ、もって不正の行為により同年分の正規の所得税額六四二七万四八〇〇円と右申告税額との差額六三三五万二七〇〇円(別紙(六)税額計算書参照)を免れたものである。

(証拠の標目)

判示全部の事実について

一  被告人夫、同高の当公判廷における各供述

一  被告人夫(昭和六〇年四月二九日付、同月三〇日付《本文四七丁のもの》)及び同高(二通)の検察官に対する各供述調書

一  高山斗善こと高斗善の検察官に対する各供述調書

一  収税官吏作成の次の各調査書

1  売上調査書

2  期首棚卸高調査書

3  仕入調査書

4  期末棚卸高調査書

5  公租公課調査書

6  水道光熱費調査書

7  消耗品費調査書

8  福利厚生費調査書

9  修繕費調査書

10  広告宣伝費調査書

11  通信費調査書

12  保険料調査書

13  交際費調査書

14  諸会費調査書

15  消耗機械器具費調査書

16  人件費調査書

17  雑費調査書

18  サービス品費調査書

19  運賃調査書

20  支払家賃調査書

21  地代調査書

22  競売費調査書

23  手数料調査書

24  支払利息調査書

25  減価償却費調査書

26  雑収入調査書

一  収税官吏作成の査察官報告書

判示第一全部の事実について

一  被告人夫の昭和六〇年四月三〇日付(四丁のもの)検察官に対する各供述調書

一  三井里枝こと呉花玉の検察官に対する供述調書

一  収税官吏作成の次の各調査書

1  申告事業所得調査書(甲27号)

2  定期積金給付補てん金(雑所得)調査書

判示第一の一の事実について

一  押収してある被告人夫の所得税の確定申告書(昭和五六年分)一袋(昭和六〇年押第九四六号の1)

判示第一の二の事実について

一  押収してある被告人夫の所得税の確定申告書(昭和五七年分)一袋(同押号の2)

判示第二全部の事実について

一  収税官吏作成の次の各調査書

1  申告事業所得調査書(甲29号)

2  不動産収入調査書

3  不動産経費調査書

4  利子所得調査書

5  定期積金給付補てん金調査書

判示第二の一の事実について

一  被告人高の所得税の確定申告書(昭和五六年分)一袋(同押号の3)

判示第二の二の事実について

一  被告人高の所得税の確定申告書(昭和五七年分)一袋(同押号の4)

(法令の適用)

一  罰条

被告人夫の判示第一の一及び二の各所為並びに被告人高の判示第二の一及び二の各所為につき、いずれも所得税法二三八条一、二項

二  刑種の選択

いずれも懲役刑と罰金刑の併科

三  併合罪の処理

いずれも刑法四五条前段、懲役刑につき同法四七条本文、一〇条(犯情の重い判示第一の二及び同第二の二の罪の刑にそれぞれ加重)、罰金刑につき同法四八条二項

四  労役場留置

各刑法一八条

五  刑の執行猶予

各刑法二五条一項

(量刑の事情)

本件は、パチンコ店、ゲーム店、マージャン店及び焼肉店を共同経営していた被告人両名が、それぞれ自己の所得をことさらに過少に申告して、被告人夫が、二年分の所得税合計八四八七万四一〇〇円、同じく被告人高が八六九五万三二〇〇円をそれぞれほ脱した事案であって、その額が高額である点及びほ脱率が各年分いずれも九〇パーセントを超えている点で犯情悪質である。被告人夫は、昭和八年ころ来日して以来、櫛製造の工員、パチンコ店の経営、釘師として稼働した後、同じく被告人高は、同一五年に来日して以来、洋傘製造の工員、洗剤の販売及び製造の手伝い、スマートボールの経営等を経た後、同三〇年に被告人両名ほか一名が共同で、東京都台東区竹町でパチンコ店「新光」の経営を始めたのを皮切りに、その後、被告人らは、共同で、足立区内、台東区内、千代田区内、大田区内において、パチンコ店等を経営し、本件当時は、被告人両名で、大田区大森北において、パチンコ店「泉」、ゲーム店「ゲームセンター泉」、マージャン店「麻雀クラブ南」及び焼肉店「南山苑」を、同じく千代田区神田平河町において、パチンコ店「泉ホール」及びゲーム店「ゲームハウス泉」を、被告人両名ほか一名で共同して、足立区西新井栄町において、パチンコ店「マルミセンター」を、それぞれ経営していたものである。被告人らは、昭和五六年に新鋭機種フィーバーを導入したことが当たり、売上及び利益が大幅に増大したが、パチンコ業界も競争の厳しい業種であることに鑑みて将来のための資産蓄積を考え、申告額をはるかに上回る多額の所得があることを熟知しながら、申告書に収入金額を記載せず、被告人らにおいて適当に算出した甚だしく過少の所得金額のみを申告するという、いわゆるつまみ申告の方法により本件を敢行したもので、本件は大胆かつ悪質な犯行であり、動機の面でも特段斟酌すべき事情はなく、被告人らは、相当永年にわたりつまみ申告による過少申告を繰り返してきたことが窺われることをも併せ考慮すると、被告人らの刑事責任は、いずれも重いといわなければならない。

しかしながら、他方、本件においては、つまみ申告による過少申告をしたものの、これ以外にことさらに所得を隠蔽する手段を講じているわけではないこと、被告人らは、いずれも本件犯行を素直に認め、修正申告を行った上、納税にあてる資金を捻出するために店舗の一つを売却し、所得税につき、本税はもちろん、加算税及び延滞税をも含めて完納し、地方税についても納付したこと、被告人らは、本件が摘発された後、経理担当事務員を置いたり、税理士に申告手続を依頼するなどして、今後の納税に過誤がないようにし、反省の態度を表わしていること、被告人らは、来日後永年にわたり真面目に働き、これまで前科前歴もないことなど、被告人らに有利な事情も認められ、これらに被告人らの経歴、年齢等をも総合勘案して、被告人らに対しては、いずれもその懲役刑の執行を猶予するのが相当であると判断した次第である。

よって主文のとおり判決する。

(求刑 被告人両名につき、いずれも懲役一年及び罰金二八〇〇万円)

(裁判長裁判官 小泉祐康 裁判官 石山容示 裁判官 鈴木浩美)

別紙(一) 修正損益計算書

三井英祐こと夫英祐

自 昭和56年1月1日

至 昭和56年12月31日

<省略>

別紙(二) 修正損益計算書

三井英祐こと夫英祐

自 昭和57年1月1日

至 昭和57年12月31日

<省略>

別紙(三) 修正損益計算書

高山二吉こと高斗慎

自 昭和56年1月1日

至 昭和56年12月31日

<省略>

別紙(四) 修正損益計算書

高山二吉こと高斗慎

自 昭和57年1月1日

至 昭和57年12月31日

<省略>

別紙(五) 税額計算書(単位 円)

夫英祐

昭和56年分

<省略>

昭和57年分

<省略>

別紙(六) 税額計算書(単位 円)

高斗慎

昭和56年分

<省略>

昭和57年分

<省略>

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